先に述べたようにくも膜下出血を生じた例では、殆どの例に先行性の項部、後頭部痛の訴えがあります。破裂するまでの間は動脈瘤が形成され未破裂状態にあったと考えられます。動脈瘤の発生時点からの日が近いほど(特に1週間以内)動脈瘤の修復組織ができていないこと(修復組織が完成して動脈瘤が安全な状態になるのは約2ヶ月かかります)、大きい動脈瘤ほど壁が薄くて破裂する率が高いことは病理所見から見られる事実です。また、進行性に増大するものも危険だと一般的には言えます。しかし、無症候のものも含めると動脈解離は結構な頻度で生じており、その300-600に1つが破裂してくも膜下出血を生じるというデータと、それを予防する処置が、椎骨動脈を一本閉塞し、それによって脳梗塞などの後遺症をほぼ残さずにできる安全率が95%ぐらいである現状を考えると、治療するかどうかは個々の動脈瘤ごとに、主治医と十分話し合って決定すべきと考えます。
筆者自身の未破裂の状態で診断された解離性脳動脈瘤55例(1985 - 2005)の治療データを示します。55例中、1例は破裂してくも膜下出血で亡くなり、それ以外は、未破裂で頭痛のみで終始しています。
比較的長期(2ヶ月から20年)にわたり経過観察できた50例について、初診時の動脈瘤の形状とその変化、破裂の有無を報告します。これは2005年の脳神経外科学会総会のシンポジウムで発表したデータを元にしています。
1:初診時の動脈瘤の形状
A: 狭窄所見のみ 20例
その後の形状変化 改善、正常化 12例、閉塞 3例 (閉塞後再開通 2例)、膨隆増大 2例
(2例とも手術施行 )
B: 膨隆所見あり(動脈瘤タイプ)21例
その後の形状変化 縮小、正常化 12例、変化なし 3例、増大進行 4 例 (増大後縮小 1例, 部分血栓化
1例、手術 1例)、破裂死亡 1例
C: 閉塞 7例
その後の形状変化 再開通 5例、閉塞のまま 2例、 脳梗塞にて死亡 1例
D : double lumen 2例
その後の形状変化 2例とも不変
全体で見ると、55例中破裂した例が1例 (死亡)で、動脈瘤発生(頭痛)をDay 0とすると Day11に破裂を生じています。破裂した例は、動脈瘤の最大径が周囲の椎骨動脈の3倍の径があり、シリーズ中ほぼ最大の動脈瘤でした。それ以降の破裂例はありません。
逆に、動脈瘤が破裂してくも膜下出血を生じた107例 ( くも膜下出血になってから診断された 106例と、未破裂の時点で診断された
1例を含む)についてのデータを示します。動脈瘤発生時の頭痛(Day 0)から、実際の破裂に至った日は、Day
0 : 43例、Day 1: 18例、Day 2 : 11例、Day 3 : 6例、Day 7 :
2例、Day 11 : 1例、でそれ以降は破裂例はありません。診断時には昏睡状態等であり頭痛があったかどうか不明
な方は、26例でした。 上記のデータでは、破裂例に関しては動脈瘤発生時の頭痛がはっきりしていた81例のうち、78例(96.3%)が
Day 3以内に動脈瘤が破裂しており、最長は11日です。
上記の動脈瘤の自然修復の経過と考え合わせると、動脈瘤発生時の頭痛(Day 0)からみて Day 4以降に経過した例はかなり安全であり、特に約2週間以上経過したものはほぼ破裂の危険はなかったということになります。また、ちなみに未破裂で発見された解離性動脈瘤について、先行性の頭痛(Day
0)から Day 3 以内に診断された例が, 65.7%であり、残りの34.3%がDay 4以降に診断されていました。筆者のシリーズはおそらく、過去のほぼ最大例数を含むものだと考えますが、今後はもっと大きい臨床データをまとめていく必要あります。
- 無症候で発見されたもの -
無症候で偶然に発見されたものは、まずその形やMRIなどの所見から、慎重に解離性脳動脈瘤かどうかを検討する必要があります。解離性脳動脈瘤か他のタイプの本幹動脈瘤かどうかは、最終的に判断できないこともあります。また、
無症候の解離性脳動脈瘤は、発生時点がわからないため、発生してから2ヶ月たったものは安全という考えを基本とすると、ほとんどの
無症候性のものは安全と言うことができますが、形状の変化を追うことは治療方針を決める上で重要です。ただし、両側椎骨動脈に発生したもので、片方に治療的椎骨動脈閉塞を行った結果、もう片方の
無症候性動脈瘤に流れる血流が増加して、破裂した報告はあります。
都立府中病院 脳神経外科
水谷徹
< 文献による補足説明 >
1:Mizutani T, Miki Y, Kojima H, et al : Proposed classification
of non atherosclerotic cerebral fusiform and dissecting
aneurysms. Neurosurgery 45 : 253-260,1999 <戻る>
2:椎骨動脈解離例にみられる椎骨動脈の器質化を伴う内弾性板断裂について
斎藤一之、高田綾、他 第44回神経病理学会総会 2003 5月 抄録集 <戻る>
1999-2002年にかけて東京都監察医務院で剖検を行った突然死173例について、椎骨動脈の連続切片による観察を行った所、くも膜下出血、大動脈解離を除いた、窒息、縊死などの対照群94例で10人(10.6%)に内弾性板の断裂と内膜による補修(器質化)
を認めた。
*解離性脳動脈瘤によるくも膜下出血の発生率が、1-2人/人口30万人/年、解離性動脈瘤の発生が20-70才の50年間に生じると仮定すると、30万人x
1/10 x 1/50 = 600人
すなわち、小さい動脈解離まで含めると、1-2 / 600の割合で破裂してくも膜下出血を生じ、その他の解離性動脈瘤は破裂しないというシミュレーションができる。 <戻る>
3:Mizutani T, Kojima H, Asamoto S
: Healing process for cerebral dissecting aneurysms
presenting with subarachnoid hemorrhage. Neurosurgery
54 : 342-347, 2004 <戻る>
4: Mizutani T,Aruga T,Kirino T,et
al : Recurrent subarachnoid hemorrhage from untreated
ruptured vertebrobasilar dissecting aneurysms. Neurosurgery
36 :905-913, 1995 <戻る>
5: 山浦晶、吉本高志、橋本信夫、小野純一 : 非外傷性頭蓋内解離性病変の全国調査
脳卒中の外科 26 : 79-95, 1998 <戻る>
6:Yamada M, Kitahara T, Kurata A,
et al : Intracranial vertebral artery dissection with
subarachnoid hemorrhage : clinical characteristics
and outcomes in conservatively treated patients. J
Neurosurg 101 : 25-30, 2004 <戻る>
7:Nakagawa K, Touho H, Morisako T, et al : Long-term
follow up study of unruptured vertebral artery dissection:
clinical outcomes and serial angiographic findings.
J Neurosurg 93 : 19-25, 2000 <戻る>
別表
< 再破裂データ比較(くも膜下出血発症の解離性椎骨動脈瘤)>
Mizutani T (1995) 42例中 71.4% (30例)
が再破裂 ( 再破裂例中 56.7% (17例) は24時間以内、80% (24例) は1週間以内)
最長41日目
全国調査 ( 1998 ), 山浦晶ら
206例中、14.1% (29例)に再破裂
Yamada M (2004) 24例中 58.3% (14例)が再破裂、
( 再破裂例中 71.4% (10例) は6時間以内、93% (13例) は24時間以内)